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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)10346号 判決 1975年12月25日

原告

名古屋相互銀行

被告

住友海上火災保険(株)

理由

一  原告主張の請求原因1ないし3及び5の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の債権者代位権の行使による本件保険契約の解除並びに相殺について検討する。

前記争いのない事実に《証拠》を併せ考えると、次の事実が認められる。

1  原告銀行大阪支店は訴外エアロマスターに対し、昭和四七年以降銀行取引をなし、同四九年五月二〇日倒産時には、手形貸付及び手形割引による債権として約四億五〇〇〇万円の債権を有していた。

2  原告の訴外エアロマスターに対する債権については、親会社である訴外株式会社日本熱学の保証があつたが、同年五月一九日ころ日本熱学の倒産により訴外エアロマスターも連鎖倒産したため、原告は前記債権の保全回収にせまられ、同訴外会社の決算書類から本件保険契約の存在を知り、右解約返戻金債権と被告に対する貸金債務との相殺により被害の減少を考えた。

3  そこで翌五月二〇日、急拠原告銀行本部融資管理課長鈴木一一らが大阪支店に赴いたが、その場で被告会社関西経理部課長補佐中川修一から本件連帯保証債務の履行を請求されたので、原告は訴外エアロマスターに対する保証債務を履行しても求償権行使が極めて困難であることを訴え、被告会社において本件保険契約を任意解約のうえ、解約返戻金と貸金とを相殺して原告の連帯保証債務を減額してもらいたい旨要望したところ、被告会社の担当者は即答を避け、翌二一日、前例がない旨右申出を拒絶してきた。

4  そのため、原告は弁護士と相談のうえ、同年五月二五日付同月二七日被告到達の「相殺の申出」と題する書面をもつて、民法四五八条、四三六条二項により前記債権、債務を対当額で相殺する旨の意思表示をしたが、右書面には、原告が訴外エアロマスターに代位して本件保険契約を解除する旨の通知は記載されていなかつた。ところが、被告より同年六月六日付書面で本件保険契約は契約者からの解約の申出がない限り保険者としての返戻金債務は発生せず、本件債務と相殺適状にあるとはいえない旨指摘されて、原告は同年六月一四日付書面で改めて債権者代位権に基づき本件保険契約の解除並びに相殺の通知をした。

以上の事実が認められ、《証拠》中、右認定に反する供述部分はにわかに措信できない。

右認定の経緯に徴すると、原告が被告に対し、昭和四九年五月二〇日口頭にて又は同年五月二七日被告到達の書面をもつて、債権者代位権に基づき本件保険契約を解除する旨の意思表示をしたとは到底認められない。したがつて原告のこの点に関する(一)(二)の主張は採用できない。

三  次に、原告が同年六月一五日被告到達の書面で、本件保険契約を債権者代位権に基づき解除し、かつ前記解約返戻金債権と被告に対する貸金債務とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたこと及びこれよりさき同年五月二二日、大阪地方裁判所が訴外エアロマスターに対する更生手続開始申立事件(同庁昭和四九年(ミ)第六号事件)につき、会社更生法三九条の保全処分として、会社の業務及び財産に関し監督員による監督を命じ、契約の解除をなす場合は、監督員の同意を得なければならない旨の決定をなし、右決定が同年六月一一日商業登記簿に登記されたことは当事者間に争いがない。

ところで、債務者たる会社が監督員の同意を得ないで裁判所の指定した行為をした場合における当該行為の効力については、規定を欠くけれども、右保全処分が会社の更生を妨げるような事態の発生を防止することを目的とし、監督員の同意はその実効性を担保するために執られる措置である制度の趣旨、目的から考えると、監督員の同意を要すべき事項が商業登記簿に公示される以上同意を得ない行為は無効と解するを相当とする。しかして、民法四二三条による債権者代位権は債務者のなし得る行為に限定されるから、債権者たる原告は、債務者エアロマスターが監督員の同意なしに解除しえない本件保険契約を代位して解除することはできないものといわねばならない。

したがつて、原告が債権者代位権に基づいてした本件保険契約の解除は、監督員の同意を欠き無効というべく、主債務者であるエアロマスターの解約返戻金債権は発生しないから、原告が連帯保証人としてなした相殺援用権の主張もまた理由がない。

四  よつて、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから、これを棄却する

(裁判長裁判官 土田勇 裁判官 飯田敏彦 広田民生)

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